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セツは視線を再び窓の方へ向け、話し続ける。
「俺は、引っ越しが決まって……悩んでいたんだ。お前に言うか。言わないか」
「………」
私は、苦しい胸を押さえて、声が出せずにいた。セツは構わず、過去を語る。
「引っ越しの事。自分の気持ち。ゆらゆら揺らいでいた。そんな時に…」
「セツ…!」
堪らず、名前を呼ぶ。すると、切なげな瞳で私を見た。
「今なら…解るよ。大人になった今なら。だけど、あの時は俺も……まだガキだった」
次第に視界が潤んでくる。
遠くから聞こえるピアノの音。
それは、セツの傍らで、一生懸命練習したショパンの『別れの曲』
なんてタイミングで…なんて曲弾いてんのよ…!
頭の中で古賀君に悪態をつきながら、歯を食い縛り、泣きそうになるのを必死に耐える。
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