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セツは、音楽室の方向へと身体を向ける。
「…そっか」
そう呟くと目を瞑った。
聞こえてくる息ぴったりな『トルコ行進曲』
きっと、体育祭の予行練習前の時のように、二人で交互に弾き合っているのだろう。
あの時の二人を見ていなければ、一人で弾いていると勘違しそうだ。それほどまでに、二人のピアノはシンクロしている。
静かに佇み、目を瞑ったままのセツは、ピアノの音を身体で感じようとしているようだった。
「さすがねぇ…どうやったら、ここまで溶け合えるのかしら」
思わず感嘆の溜息が出る。
「羨ましいな」
「え?」
微かに聞こえたセツの小さな声。
ゆっくりと振り返り、真っ直ぐな視線を私に向ける。
「俺には出来なかった…いや、解っていなかったと言った方がいい」
私の心臓がドクンと大きく波打った。
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