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そうかもしれない…と彼のピアノに耳を傾けながら思った。 彼のピアノは、彼女がいるのといないのとでは、雲泥の差がある。 理香子さんが自分の息子のピアノはコンクール向きじゃないといったのは、余りにも彼女の存在が大きく影響しているからだ。きっと。 古賀君は、倉橋さんのためだけに、ピアノを弾き続けている。 それを彼は『邪』だと言うけれど、その演奏に私たちが惹き付けられるのは、彼の想いが純粋だからこそ。 セツは音楽室の方を向いたままだ。 彼のピアノに、何を想っているのだろう。 放課後。 ピアノを練習する私。その傍らで本を読むセツ。 音楽室は夕日に染まり、二人に影を作る。 鍵盤に集中しようとするけれど、こっそりとセツを盗み見て、睫毛を伏せたセツの横顔に、どれだけときめいたことだろう。 ゆったり流れる二人の時間が、堪らなく愛おしかった。 私達にも、古賀君と倉橋さんのように…誰にも邪魔されない絆があると思っていたのに… ・
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