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あたしも姿勢を正し、ピアノを弾く体制に入って、目を瞑る。
そして、大きく息を吸った瞬間…
チュッ!
「--ッ!」
不意を突かれてリップ音を鳴らした唇に、身体が飛び上がり、目を見開く。
その直後、ケイはケラケラ笑いながら、ピアノを弾き始めた。
コロコロと転がるように奏でられ始めたのは、喧嘩バージョンの『子犬のワルツ』
「もう!ケイの意地悪!!」
真っ赤な顔で拗ねたって、ケイはお構いなしで、とても楽しそうにピアノを弾き続ける。
窓の外から、グランドで部活動をしている生徒達の掛け声。
遠くでブラバンの管楽器の調律をしている音。
隣では、大好きなケイ特有の音色。
心地よい風が吹き込んで、あたしは邪魔になった横髪を耳にかける。
学校中の音の中から、ピアノの音だけに耳を研ぎ澄ませて。
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