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沈黙が重くはびこるなか、偉人の足もとに目を落としたまま萌絵はひとつ息を呑んだ。
「いつから……いつもそうだったの?」
云い直して萌絵はうつむけた顔を上げ、正面で立ちっぱなしの偉人を見上げた。
自分の妻が不貞を働いているというのに、その面持ちからは立腹した様子も嘆いた様子も見当たらない。
偉人もまた背徳者であり、同罪だからだろうか。
あるのは冷え冷えとした眼差しだけだ。
「否定してほしいのか」
偉人はぶっきらぼうに問い返す。
訊かなくてもわかっていることをわざわざ口にしているというのは萌絵自身も承知している。
求めている答えも否定ではない。それなら、なんのために問わなければならなかったのか。
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