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声の発生源は二階にあった。
高いトーンで途切れ途切れの悲鳴があとを引く。
つらそうに聞こえてもそれがつらさとは限らないことを萌絵は知っている。
本当につらいとき、苦痛を訴えることさえ放棄しなければならないことを見て知っている。
ベッドが軋む音こそ聞こえないが、木でできた家は音を筒抜けにした。
消去法を使うまでもなく声をあげているのは蝶子で、そうさせているのは優なのだ。
目のまえに偉人が立つ。
太い首がかしいだ。
どうするか――
踏みこむかほっとくか、偉人は萌絵に決断をゆだねた。
萌絵が首を振ると、立ち尽くした萌絵の躰を反転させて別荘から連れだした。
偉人は萌絵の手を引いていま来たばかりの道を引き返し、途中の分かれ道で、浜辺ではなく岩場のほうに向かった。
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