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周りを行き交う人々は、皆偽善者だらけだ。私は少年に手を差し伸べ、ゆっくりと支える。自分だけはその中の一人で居たくないから、たった其れだけの気持ちからだった。彼はそんな霖音に半ば驚きながら、小さく微笑む様子を見せる。やがて少年は大丈夫だよと優しく言い、目の前で不思議な光景を魅せた。手に光を宿して何かを
取り出す。直ぐ様、そちらに体重を預けた彼。驚愕する私を他所に、少年は真顔のまま当たり前のよう松葉杖に手を掛ける。やはり魔法だ、此所は異世界だと確信する。だが何故こんな場所に迷い込んでしまったのか、明らかに不明
現状況的には、自分の頭が一瞬可笑しくなったのではとも思った。けれど何かが違う、そんな気がするのは気の迷いからなのだろうか沢山の店。なのに人々は感情すら感じられず、ただ動く其れだけのよう。切り取った空間が其処には広がっているのだから、私は正直理解し難かった。色々思案していると、少年が苦笑を浮かべながら
「残念だけど、此れは現実。僕も最初は驚いたよ、でも。もう大分慣れたんだ、正しくはそうする他無かった」
「えっ、じゃあ。あなたも何時の間にか、此の世界に居たの?」
彼は霖音の問いに、少し間を開けてから答える。何れ分かると、意味深にそう言って少年は手を振りながら雨の中を駆けって行った。結局名前を訊きそびれた事に、少しばかり後悔するも。私は彼を追う、とりあえず着いて行けば何かが解る可能はある。考えた結果だ
幸いな事に、少年には気付かれずに一軒家の前に到着した。流石に他所の家に上がるのは気が咎める、私は諦めようと踵を翻す。その瞬間、窓から人が転落してきた。距離は僅か数センチのすれすれの所、霖音は後ろに仰け反り何とか避ける。だが其れは仇となる、
バンッと、辺りに轟く音がして。同時に私の意識は遠退いた、何が起きたのか確かめようと恐る恐る背後を振り返る。其処には幼き容姿には不釣り合いの、拳銃を構えた少女の姿があり彼女は怯える様子で。此方を黙視していた……
(っ、何で。こんな小さな子が、銃を所持してるの?)
「お兄ちゃんは何処、誰なのよ!」
かなり、怒りを露にしている少女。しかし私の意識は朦朧とし始めていた、やがて視界が狭くなり徐々に声も聴こえなくなる。恐らくはこのまま私は、言葉さえ何も話せない状態だ。背に走る火傷したような熱さ、其れが口を開く事すら邪魔をしていた。最早、意識は限界に近付く。
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