此の世界

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少女は、私より幼く見える。恐らくは此の世界を熟知しているのだろう、勝手な推測に過ぎないが多分自分よりは知識は豊富だと思うしかし、夏々とはまた変わった名前だ。彼女の姿はいつの間にか消えていた、気付くと弟だけが居る私は亜喜良の手を繋ぎ、とりあえず辺りを見回す。先程のような暗闇は無く、だだっ広い開けたような地平線が其処には在った…… 極端に白いコントラスト、無を表すかのよう世界は純白に染まっている。無色の此処は一体何処迄続くのか、弟は嬉しそうに私を見上げる形で視ていた。無邪気な笑顔につられ、此方まで微笑みたくなる。ただ出口だけを探す、亜喜良と再会出来た事に感謝し。必死に帰り道を探した、暫く歩き続け 「姉ちゃん、階段があるよ。行ってみよう?」 「えっ、本当だ……黒い階段みたい」 亜喜良が、右手側にあるその場だけ異質の階段を指差しながら言うまるでクレヨンで白を塗り潰した。そんな雰囲気を思わせる一色の黒が有った、言葉通りモノクロの世界に半ば不安さえ感じながらも私は弟を信じる。幸いなのは炎が無い事だ、もし此処に火が有るならば自分は立ち止まってしまう 其れ程迄に、私はあの日の。残像(火事)を覚えている、全てを飲み込む。強大な炎が全部消し去った、跡形も無く私達親子は。焼き尽くされて灰になる運命だったのかも知れない、けど消える事無く自身と弟は救われた。神は本当に居る、だからこそ私は今此の世界に有るに違いない。ふと考えた、 全てが幻で。自分はとっくに死んでいるのではないかと、けど其れは何か違う。なら亜喜良はどうなるのか、彼は私の弟だ。勿論あの日に家に居た、何もかもが予測不能の不可解な謎。真実は無い、 「亜喜良、駄目だよ。戻って、其所は多分出口じゃない」 「姉ちゃんは、僕を信じないんだ。じゃあもうお別れだね、さようなら」 弟は冷めた目で、此方を視ながら言い放つ。繋いだ手は意図も簡単に離れ、やがて周りは暗幕に包まれる。そして亜喜良は不敵に笑った、其の声は凄く耳障りに近い。何故なのか脳自体が拒絶反応を起こす、全身は恐怖で震え出した。矢先弟は失笑し、階段を上がって行く。私は慌てて跡を追うものの 黒い階段は、徐々に透明になっていく。まるで自分だけを拒むように、足場にあった其は元形すら止めずに消え行く。いっそ此が夢ならばどんなに良いか、まだ現実味の無い思考を巡らす自身が憎い。暫くして私は覚悟を決めて目を閉じる
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