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しかし、いくら待っても全身に痛みは走らない。地に叩き付けられる感覚すら無いのが妙だ、恐る恐る目を開ける。すると視界に眩い光が差し込んだ、次第に見えてきた辺りの景色。思わず手を伸ばし、何かを掴もうとした次の瞬間。誰かの声が微かに聴こえた、途端に目の前に見慣れない天井が見えた。此処は何処なのか、首を傾げると私は部屋中を見回してみる。
直後、扉を開けて入って来た少女と目が合った。水色の髪を二つ結びにした彼女は、やがて涙目で私を見詰め。ただ良かったと呟く、確かこの子は。自分を撃った張本人だ、しかしその様子からして彼女にも訳があったのだと察した。ずいぶんと変わった姿だ、着ている服装は私服と思われるエメラルドグリーン色のワンピース……
其れは兎も角、少女の髪色はまるで地毛のよう見事に艶やかな髪だ。何処か不思議な雰囲気を放つ、歳は十二歳くらいだろうか。つい視やっていると、彼女はごめんなさいと謝り出した。その時、カチャリッと音を立てて再度扉が開く
「えっ、商店街に居た、あの少年……もしかして。あなたの家?」
「空、駄目じゃないか。むやみやたらに、人を敵対するなんて。急所に当たっていたら危なかったんだからな」
少年はまくし立てるよう、少女に注意を促す。途端にしおらしくなる空と呼ばれた彼女は、潤む目を此方に向けて再び謝罪の言葉を口にした。私は思わず失笑し、十分危険だったよと心の中で呟く。
直接、言葉に出せる筈も無く終いには苦笑する。そんな様子に、少年は妹のせいでごめんと言い。廊下に出て行ってしまった、多分此所は一階なのだろう。扉の隙間からは勉強机とその他生活用品が置かれている、しかし一つ歪なのは
天井までの高さはある本棚が、何処かの部屋に繋がる扉を塞いでいる事だった。錆びたノブが僅かな隙間からでも見える、それ程まで歪(イビツ)な気配を漂わしていた。
「ねぇ、空だっけ。お兄さんの名前って何、訊きそびれたんだけど。良い?」
「お兄ちゃんの、知り合い?うーん。蒼都(アオト)だよ」
空は少し、間を開けて何かを考える素振りを見せる。やがて少年の名を教えてくれた、やはり初対面では警戒されても仕方無いのだろう。けれどどうしても名前だけは訊いておきたかった、そんな心中を察したのか少女は答えた。わりと元気な様子に、半ば安堵する。
警戒と言うよりは、案外兄の名前を忘れかけていた為かも知れない。其れに気付き、安心した。
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