第1話 

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カーテンを開け、朝の日差しを全身で受け止める。 窓を開けると少し寒いが、息を吸い込むと冷たく新鮮な空気が全身にいきわたる。 昨日買った新品のスーツを着て、前髪をピンで留める。 朝食も済ませ、鞄の中身も問題はない。 私は家の奥にある仏壇の前に座り、リンを鳴らす。 「お父さん、お母さん。今日から頑張ってきます。見守ってください。」 手を2回叩き、お辞儀をする。 今日初めて使う新品の鞄を持ち、私は無言で家を出た。 いつも言っていた「行ってきます」という言葉は最近はもう言わなくなってしまった。 帰ってこない言葉を言ってもむなしくなるだけだということに気づいてしまったから。 でも、私は決して諦めたわけじゃない。 両親はもう帰ってこないけれど、私の弟ならまたこの家に戻ってこれるかもしれない。 私は可能性がある限り、諦めないと決めた。 強くなろうと決めたんだ。
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