Aren't we happy?

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Aren't we happy?

 夕べの馬鹿騒ぎが嘘のように思えるほど静かな朝だった。  修学旅行の最終日。同室の仲間達はみんなまだ眠っている。掛け布団を蹴飛ばして寝ていた俺は明け方の冷え込みで目を覚ました。規則正しい寝息やいびきをBGMにぼんやりとした視界で天井を眺めていたが、テーブルの上に置いたはずのメガネの行方が気になり体を起こした。  日本酒に焼酎、ワイン、他の部屋の奴も一緒になって持ち込んだアルコールの瓶の横に俺の眼鏡は置いてあった。眼鏡をかけて視界がクリアになるのと同時に、この眼鏡を外したきっかけを思い出して、俺はクスリと微笑んだ。  昨夜はみんな随分酔っていて、最後の夜だしせっかくだからと誰が言い出したのか、男子校にとって不毛極まりない王様ゲームをやる事になった。一緒になって悪乗りした俺は隣の部屋の連中にまで声をかけ、無理やりあいつを巻き事に成功した。  あいつと俺が付き合っている事は、誰も知らない。  1年の頃、出席番号順で前後の席だった俺達は、すぐに惹かれあい、互いに必要な関係だと気づいた。ただ、人前で自分達の想いを顕にできない事は理解していた。世間一般から言えば普通じゃない事だとわかっていても、心だけではなく自然と体も求め合うようになった。  僅かな背徳感は、思春期の俺達にとって甘い蜜のようにさえ思えた。  人目を避けて逢瀬を重ねる以外、普通の恋人たちと同じ幸せな関係を築いていた。  王様を引いた友人が声高らかに「7番と4番が本気のチューな。勿論ディープなベロチューで!」と宣言すると、あいつは気まずそうに「えっ」と声をあげた。  俺はもう一度手元の割り箸に書かれた7という数字を確認して吹き出しそうになった。少し離れた場所に座っていたあいつは上目遣いで俺をじっと見つめている。 「はい俺、7ば~んっ♪」  割り箸を天井に向けて勢いよく立ち上がる俺を見て、あいつは「マジで…?」と小さく呟いた。周りの連中が4番誰だよと騒ぎ始めた頃「くっそ、俺かよぉ!」と赤面したあいつが立ち上がった。わざとらしい愚痴を零しながら、あいつが少しずつ俺に近づいてくる。 「お前らゲームだからって写メ撮んなよ~」なんて、俺も上手いことを言った。 人前であいつと堂々とキス出来る。きっと一生に何度も無い事だろう。俺はかなり高揚していた。 「キースッ!キースッ!」と盛り上がる中、俺はいつもの癖で眼鏡を外した。
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