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「大ちゃん、あの…さ、変な事聞くようだけど…。」
「ん?」
「えっと、あー、こ、香水!何使ってるの?」
「は?」
思いもよらぬ質問だった。将太郎は相変わらず視線を落としたまま、カバンから取り出した俺のハンカチをギュッと握りしめている。
それにしてもおかしな質問だ。俺は香水なんてほとんどつけた事がない。
「このハンカチ、大ちゃんの匂いがしたんだよ。えっと…大ちゃんの近くっていうか隣に居るといつもする匂い。花みたいないい匂いで…」
そう言えば母親が、我が家で長年使っている柔軟剤は外国製の香りがいいものだと言っていた事を思い出した。
「将太郎、多分それ香水じゃなくて、柔軟剤の匂いだと思う。」
「え!?そうなんだ?どこのメーカーの?」
慌てて顔をあげた将太郎が上目遣いで俺を見つめる。
うっすらと潤んだ瞳が、不安そうに揺れていた。
「ごめん、家に帰んないとわかんねーや。」
「そっか…。その匂い、俺すごく好きだから、俺も使いたいなって思ってさ。」
「なんで?そんなに気に入った?」
「うん、だってほら、自分の服から大ちゃんと同じ匂いがしたら、安心できそうだし、嬉しいじゃん?」
これは告白なのか?それともいつものただの天然発言なのか。
次の言葉が見つからない。
今すぐ目の前の将太郎を抱きしめる事が出来ないこの状況は、拷問に等しいと思った。
「あれ?俺、変な事言った?」
さっきまではにかんでいた将太郎の表情が曇る。きっと目の前の俺が困惑した顔でコーヒーを飲んでいたのが気になったのだろう。
「ちょっと…変じゃね?だって…」
と、言いかけて俺は続きを飲み込んだ。そういう俺だって、十分変なんだ。俺も将太郎の匂いが好きだし、ずっと将太郎と一緒に居たいし、いつか将太郎に触れてみたい。
「だって?なに?気になるんだけど。」
「いや、なんでもねーよ。あ、そうだ。また今度ドライブでも行くか?」
健全なデートがいつ終わるのか。その時俺達の関係は友達か、恋人か。
将太郎と俺の想いが同じなのかはまだわからないけれど、多少は望みがある事にホッとした。
始発まであと少し。
俺は4杯目のコーヒーを飲みながら、無邪気に笑う将太郎を見つめていた。
<了>
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