episode-01

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 放課後、約束通り体育館裏で川口は俺を待っていた。 「おせーぞ、大木」  そう言ってさっきまで眺めていたスマホをポケットに仕舞いこむと、川口は溜息をついて俺をチラリと見た。 「わりーな、日直だったから日誌出して来て遅くなった」 「は?言い訳すんなよ」  相変わらず短気で口が悪い。  そんな川口と俺は部活仲間とのカードゲームに負けて、罰ゲームでキスをするハメになった。  最初はみんなの前で、って話だったんだけどそんなシーン写メにでも撮られたら、その日のうちにクラス中にメールで回される。だから二人っきりでやっとくから、なんて流れに無理やり持って行って、結局その場はお流れになった。『二人っきりで』なんて本当は逃げ口上で、実際にやらなくて済んだし、上手いこと切り抜けたなーなんて思ってたんだけど、相手役の川口が「やるなら放課後体育館裏でな」なんて言ってきやがった。  ま、男同士でキスなんて…不毛な男子校ではよくあるお遊びだ。  俺には近くの女子校に付き合ってまもない彼女が居る。彼女とうまくキス出来るように、練習しとけよーって誰かが言い出したせいで、罰ゲームが男同士でキスになったんだっけ。 「じゃあ、やるか。どうせ、練習だし」 「ん」 「練習だから、遊びみたいなもんだからな」 「…ああ」  変な緊張感で手に汗がにじむ。とりあえず深呼吸。深く息を吸って、大きく吐いた。  目の前の川口は涼しい顔で俺をジッと見ている。 「フーーーーッはぁーーー…あ、何回も言うけどさ、川口」 「ん?ああ、わかってるって、これ、練習なんだろ」 「ああ、練習な、だから、変な気起こすなよ?」 「はぁ?変な気起こしそうなのは大木の方じゃん?」  見透かしたように川口がせせら笑う。 「うッせー黙れっ!……やべ、心拍数上がってきた」  川口の上目遣いになんでか心臓がバクバクしてきて、俺はもう一度深呼吸した。 「はぁ~、さっさとやれよ!俺だって罰ゲームじゃなきゃこんな事やんねーっつーの」  溜息をつく呆れ顔の川口には、俺より全然余裕がある。  クソッ!俺より15センチも身長が低いチビのくせに、声変わりだってしてないくせに!俺より世の中の事を知ってますってしたり顔でいつも俺を小馬鹿にしてる…気がする。
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