第1章-ゲームスタート-

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ーーー月城天音は退屈を持て余していた。 世界が自分に追いついていないような、そんな違和感。自分と周りの間に感じるズレ。大人に聞かせれば鼻で笑われるようなそんな感覚を常に抱きながら生きてきた彼は、当然の如く満たされなかった。 何をやっても完璧にこなせる。今までやってみて出来なかった事は無かった。苦労などした事が無い。努力も最小限しかしていない。にも関わらず、なぜこんなに簡単に物事は進むのだろうか。そんな人生を歩んで来た彼が何かに楽しみを見出せるハズも無く、無気力に日々を生きているだけの存在へと成り下がっていた。 「ってぇ!?」 不意に、天音を衝撃が襲った。声の方へと視線を向けると、そこには茶に染められた髪色をした軽薄そうな雰囲気の男がいる。いくら考え事をしていたといは言え、人混みで誰かとぶつかる程警戒心が緩い天音ではない。それこそ、唐突に相手がこちらに向かって来るでもしない限り。男は大げさに声を上げると、その場で立ち止まったままの天音へと詰め寄る。 「おいおい、あんたさぁ、どこに目ぇつけてるワケ?って……おい、中々いい女じゃねぇか」 男の目の前にいるのは言わずもがな天音だ。黒い艶のある髪を肩口程の長さで切り揃え、その隙間から除く瞳は無気力に濁りながらも、ビー玉のように大きい。中世的と称される彼の容姿は、綺麗。そう呼ぶに相応しいモノである。 そんな淡麗な容姿に気づいた男が舌舐めずりとともにツバを飲み込む。対する天音は、既に聞き飽きたそんな言葉を耳にしても今更何も感じず、面倒くさそうに息を吐いた。 「……つまんねぇな」 虚空に消えたその言葉は誰にも聞かれるはずは無かったが、しかしそれは偶々、本当に偶然ある人物の耳に届いていた。そしてその偶然によって、彼の人生は劇的に変わる事になる。
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