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目当ての服飾屋は直ぐに見つかった。途中、露店で買い食いをしたが予算はまだまだあるのだ。天音は嬉々として店内へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~。あらぁ、綺麗なお客様だわぁ」
天音を出迎えたのはゆったりとした口調で話す妙齢の女性であった。朗らかな笑顔とたれ目が何処か優しげな雰囲気を醸し出している彼女に、天音も笑顔を返す。
「服を探しに来たのですが。戦闘にも使えるような服って扱っていますか?」
「ちょっとお値段はするけどありますよぉ。今持って来ますねぇ」
女性は幾つかの服を手にすると、それを天音の前で広げて見せた。
「一応、どれも魔力布(マジック・スキン)から作った服だからそこそこの防御力はありますよぉ。でもでも、あくまで服なので過信は禁物です」
「へぇ。 試着して見ていいですか?」
「どうぞどうぞ~。彼方が試着室になっていまぁす」
店の片隅にある試着室に入ると天音はいそいそと服を脱ぐと渡された服装に袖を通して行く。これは……内心驚きながら袖を通す。渡されていた衣服は黒色に綺麗に染められ、揚羽蝶の刺繍された簡素な着物であった。この世界に於いてはかなり異質な服装である事に驚いたモノの、デザイン自体は天音の好みど真ん中である。
「どうですかぁ?」
「着替え終わりましたよ」
試着室から出ると、女性は嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「うーん、やっぱり似合ってますねぇ。所でその服、どう思いますかぁ?」
「どうって……凄く気に入りましたよ。正直、期待以上です」
素材も初期装備の麻の服に比べたら断然良いし、ステータスを見たところ確かに防御力も上がっている。正直、既に買う満々である。
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