58人が本棚に入れています
本棚に追加
踊る子馬亭に戻ってくる頃にはすっかり夕方になっていた。意外にも散策に時間がかかったいた為だ。今日の稼ぎはすっからかんだが、それでもまだ1000イリス近くは残っているので問題はない。今日わかったことだが、お金を稼ぐことはそんなに難しくないことなのはわかっている。
受付で昨日と同じおばちゃんにお金を渡して部屋のレンタルを延長し、その他に身体を拭く為のお湯を5イリスで買い、ついでにタオルや歯ブラシ、コップなどの日用品セットを10イリスで購入して部屋に戻る。
汚れた身体を濡れたタオルで拭い、歯磨きを済ますと部屋着に着替える。欲を言えばシャワーくらいは浴びたかったが、仕方ないだろう。いずれはそういうものも探したいと思うが今は我慢だ。そして天音はかなり早めに食事をとると、まだ夕方にも関わらず布団の中に飛び込んで眠りにつくのだった。
そして時刻は巡り、夜。
メニューを確認すると、時刻は23時を示していた。天音は軽く伸びをしながら身体を解すとアイテムストレージからの戦闘用の服装を呼び出し、着替える。
腰に刀を差した天音は、アイテムストレージから取り出したパンを齧りながら一階に降りる。
カウンターで暇そうにしていたおばちゃんは天音の格好を見ると不思議そうに顔を傾けた。
「あら、こんな時間にお出かけかい?」
「ええ。レベル上げをする為、ちょっと外に出ようかと」
「悪い事は言わないからやめておいた方がいいよ。夜になると、街の周辺のモンスター共が活発になるんだよ。しかも、東の森の奥の洞窟からサイクロプスが出て来るって噂もあるんだ」
「わかりました、東の森には絶対に近づきませんよ」
おばちゃんと別れて踊る子馬亭を出た天音は、一人楽しそうに笑みを浮かべる。
「よし、サイクロプスに会いに行こうか」
もし、天音の近くでこの話を聞いている人間がいたら間違い無く彼を止めただろう。『自殺行為だ、やめておけ』と。
といっても、意外と頑固で好奇心旺盛な天音は止められようとも構わず行くのだけれども。
そうして逸る気持ちを抑えきれなくなった天音は夜の街並みを駆け出した。
最初のコメントを投稿しよう!