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「ただいま」
天音の声が虚しく響く。しかしそれもいつも通りの事で、特別に虚しいとも感じない。取り付かれたようにあくせくと働く両親は滅多に帰って来ないし、彼も何とも思わない。それが既に日常の一幕なのだから。いなくて当たり前。それが、天音が両親に抱く印象だ。
二階にある自室へと向かう。綺麗に整理されたその部屋に入ると着ていた衣服を脱ぎ去り、スウェットとラフなシャツに着替える。幸い、今日は大学で出された課題やレポートなどはない。天音は退屈を紛らわす為にも、机の上に置いてあるノートパソコンを立ち上げた。
「……メール?」
しかしここで何時もと違う事が起きる。パソコンにメールが送られて来ていたのだ。誰かにアドレスを教えた記憶も無いし、通販で何かを買ったりした覚えもない。なのに何故?という疑問が天音の中に駆け抜けると同時に、好奇心に駆られて覗いて見る事にした。
『おめでとうございます、月城天音さん。貴方は新作ゲーム『Re:birth world online』をプレイする権利を手にいれました。今の世界を捨てる覚悟を決め、このゲームをプレイしますか?
Yes/No←』
「Re:birth world online……?」
一時期ゲームにハマり、それなりの種類のゲームをプレイしてした天音だがその名に心当たりはない。好奇心に惹かれて食い入るように画面を見つめていると、やはり気になるのは最後の一文。
「世界を捨てる覚悟を決めろ?……たかがゲームで大げさだな」
呆れたようにそう漏らしながらも天音はその画面から目を離せずにいた。それは久しく感じていなかった感情。そして、直感にも似た予感。自分の中のナニカが、これを逃したらきっと後悔するぞと囁き掛けくる。
根拠のないそんな感覚。いつもなら鼻で笑って一蹴する所だが、この時の天音は珍しく、それこそ奇跡的にこの感覚に従う事を決め、その端正な顔立ちに笑みを浮かべた。
「やってやろうじゃん」
ナニカが起きると、直感的に確信しながらも天音がYesをクリックしたその瞬間。彼の視界が白に呑み込まれた。
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