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「キシロがいいんだよ、俺」
「……キシロって…」
「キシロって呼んだっていいだろ。ゲーセンで賭けに勝ったのは俺なんだし」
さほどその言葉に効力があるとは思ってもいなかった。抵抗されたらもうそれで終わりにしようと思っていた。引き返せる、まだ無かった事に出来る、あれは冗談だったんだと終わりに出来る。その予想を裏切る言葉をキシロが呟いた。
「じゃあ…いい、よ。」
その言葉に背中を押されたような気がして、キシロの右手を掴んで引き寄せてみた。羽根が生えているかのように軽くキシロの体はふわっと自分の腕の中に収まった。
「賭けに負けたんだから、俺と付き合えよ…」
「付き合うって…俺が奥寺とセックスとかすんの?」
「…うん」
確信めいたものがあった。何故か俺はこのままキシロを自分のものに出来るのだと、はっきりと感じていた。返答を待たず俺はキシロに唇を重ねた。柔らかく温かい、無抵抗な唇は静かに俺の舌を受け入れた。ゆっくりと舌を絡ませると、意識が飛びそうになるぐらい気持ちが良かった。妄想の中でキシロと何度も繰り返したどのキスよりも気持ちよかった。
「…わかった」
唇が離れた瞬間、掠れた声でキシロがそう呟いた。
”賭けに負けたから”それは果たして本当の理由だろうか?
もしかしたらキシロも俺に興味があったんじゃないか?そう聞けばよかったのかもしれない。でも答え合わせが怖くて、結局俺は尋ねる事が出来なかった。
何がきっかけでもいい。
ただ俺がキシロを抱く事が出来る権利があれば、今はそれだけでいいと、その時は思っていた。
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