第1章

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 俺の手が宙をさ迷っていると、無情にも朝の予鈴が教室に鳴り響いた。蓮司は困ったように頭を掻き、自分の席へと戻って行った。とりあえず教壇から箱が見えないように、俺は教科書を机の上に立てる。  教室の戸が開き、担任が教壇に立つ。 「おはよう。朝のホームルーム始めるぞ」 いつもの気の抜けた声が教室に響く。蓮司が勢いよく手を上げる。 「先生、今日は早いっすね。まだ本鈴鳴ってませんよ」 「伊藤。こういうことは、さくっと始めてさくっと終わらせた方がいいんだよ」 ふざけた様子の蓮司を軽くあしらう担任。蓮司が先生に絡むなんて珍しい。  黒板の上の時計を見れば、もうすぐ本鈴が鳴る時間だ。俺は今日1日この不審物とどう付き合っていけばいいのだろうか、そんなことを考えてる時だった。  箱の中から大音量の音楽が流れ出したのはーー それはミチルが生前、大好きだった曲で。  担任やクラスメイトの声はどこか非現実的で、耳には届いているのに頭の中はその曲でいっぱいだった。メッセージカードの文字も目に入っているのに浮かんでくるのは、ミチルの悪戯な笑顔だった。  無我夢中でほどいたリボン。箱の中にはチョコレートではなく、彼女が使ってた携帯電話。その上に『屋上。』と一言書かれた小さなメモ。それらを強く握りしめる。本鈴が鳴り響く校内、俺は屋上に向かい走り出していた。
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