第1章

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あたしは黙って男の後ろについて歩き始めた。 うちの近所は昔ながらの住宅地で、某長寿家族アニメの町を地でいっているようなところだ。それ程広くない道をはさんで、住宅の塀がたち並んでいる。すぐ車にでも乗るのだろうと思っていたけど、男はしばらく歩き続けた。 「ごめんね。君を迎えにいく前に片づけたかったんだけど、なかなか姿を現さなくてね」 そう言うと男は、あたしを手で制し立ち止まった。 何を片づけるのだろう、とぼんやり考えていると、薄暗い街灯の中に、どこに潜んでいたのか、数人の人影があたしたちの行く手をさえぎった。 あたしは思わずチカンの類だと思った。最近、そういう不審者情報が回覧板で出回っていて、町内会でも街灯をもっと明るいものに取り替えようという動きが出ていたのだ。物騒な世の中だ、しかもチカンも集団行動になったのか、と思っていると、その怪しい人影は、迎えに来た使いの若い男に向かっていきなりとびかかってきた。 後ろにいたあたしは思わず身をかがめてしまったけど、気がつくと、飛びかかってきたチカンは「うおっ!」と低い声をあげ、2,3メートルほど向こう側へと飛ばされていた。 「え?」 何が起こったのかよくわからなかった。 あたしの目の前にいる使いの男は少ししか動いていないのに、チカンの飛びさりようはあまりにも不自然なものだった。 他のチカンもそれを見て驚いているようだ。しかし、ひるんだのは一瞬で、すぐに別のヤツが飛び掛ってきた。今度は手に長い棒のようなものを持ち、大きく振り上げている。 チカンというより、この明らかに殺意のある襲い方は、勢力争いとか、抗争とか、そういうものを連想させた。 まだ愛人になっていないのに、もう巻き込まれてしまうなんて、不運としかいいようがない。こんな迎えの若い下っ端の男が、何人もの敵にかなうはずがない、あたしの人生は本当に終わった、と思った次の瞬間、またもや敵は大きく前方に飛ばされた。 まるで、突風でも吹いたかのようだった。
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