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あたしは、気持ちがたかぶり、すっくと立ち上がった。
この家にきたときは、戸惑いすぎて挨拶らしい挨拶もできていなかった。感謝の気持ちをちゃんと伝えなくちゃ。
「あの……、いろいろ、本当にありがとうございます。あたし、なんていうか……」
あたしは意を決した。そう、なんだっけ、こんなときの決まり文句……そうだ!
あたしは智樹さんの方を向いて、改めて、体を二つ折りにする勢いで頭を下げた。
「ふつつかものですが、どうぞ、よろしくお願いします!」
しばらくの沈黙があり、ぷっと吹き出す声が聞こえた。
恐る恐る顔をあげると、智樹さんが笑顔であたしの顔を覗き込んでいた。
目があい、なんだか恥ずかしくなって困ったけど、智樹さんが口を開いた。
「こちらこそ、よろしく」
そういった顔が少し赤く見えたのは気のせいだろうか。
家元も奥様も笑顔で顔を見合わせ、うなずき合っていた。
「うん、うん。お似合いの二人だ。私たちもかわいいお嫁さんを迎えられてうれしいよ」
「そうよ。私は娘が欲しかったの。本当にうれしいわ。私たちこれからは家族なんですもの。仲良くしましょうね」
家元と奥様の笑顔がうれしかった。父さんが亡くなって一人ぼっちになってしまったと思っていたのに、結婚は驚いたけど、こんな素敵な家族ができるなんて、思ってもみなかった。
あたしは少し目頭が熱くなって、それを隠すためにまた、家元たちに深く頭を下げた。
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