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「まあ、なんにしても、無事に我が家に来てくれてほっとしたよ。私たちは今日から家族だ。仲良くやっていこう」
家元はほがらかに笑った。どうやら、細かいことは気にしないおおらかなタイプのようだ。
「親父、菜月の意志はどうなるんだよ」
のんびりとした口調の父に対して、智樹さんは少し怒っているようだった。
あたしのためにそう言ってくれていると思うと、なんだかうれしい気持ちになってしまう。
確かに、勝手に入籍させられたあたしは怒るべきなのかもしれない。まだ16歳なのに、もう身を固めてしまったのだから。
でもあたしは、驚いてはいるけど、そんなに嫌な気持ちではなかった。もともとが親玉の愛人の覚悟でいたのだから。
それに、家元の「今日から家族」という言葉に少し心が暖かくなった。ひとりぼっちになったと思っていたのに、家族として迎えてくれるところがあるなんて、とてもうれしい。嫁として、というのが未だによくわからないけど。
あたしにとっては、智樹さんの気持ちのほうが心配だった。智樹さんは入籍のことを知っていたのだから、まあ、了解していたということだよね。見ず知らずのあたしなんかと入籍……つまり結婚してしまっていいのだろうか。
そこでにわかに、ああ、あたしはこの人と結婚してしまったんだ、という衝撃が再び襲ってきた。電車のなかでこっそりと見ることしかできなかった憧れの智樹さんの、なんというか、妻、なんて。
そう考えると、なんてもったいないことだろうと、おそれおおくなった。紙切れ一枚お役所に出しただけとはいえ、その効果は絶大だ。
顔を赤くしていると、智樹さんは誤解したようで、あたしに同情の顔を向けてくれた。あたしは、なにがなにやら恥ずかしくなり、目をそらしてしまった。
「ほら、見ろ。いきなり知らない奴と結婚させられて、泣きそうになってるじゃないか」
変な誤解を与えてしまってあたしは焦った。もう、照れている場合ではない。この訳のわからない状況を打破しないとあたしの頭の中の収集がつかない。
あたしは思い切って口を開いた。
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