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「あ、あの……。どうして、こんなことになったんですか?父と話がついていたのなら、話さなかった父に責任があるし、父が了解していたことなら、もちろん私は受け入れます。訳を教えてください」
もともと借金のカタに愛人になるつもりだったのだから、真実が何であれ、これ以上何が起こっても恐いものはない、とあたしは腹をくくった。
「そうか、そうか。菜月さんも結婚に了承してくれるんだな。ひとまず、良かった。なあ」
家元は安堵の表情で奥様を見た。
「まったく。この状況ではそう言うしかないでしょう。
菜月さん、ごめんなさいね。家元はあなたのお父様と昔から、子供同士を結婚させる約束をしていたの。お父様は自分の病気がわかってから、あなたのことをとても心配してね。一人で残していけないと言って、その約束を実行しようということになったのよ。
もちろん、あなたの了承を得て、だと私は思っていたのだけど……」
そこで、奥様は家元をチラっと見た。家元は「う、うむ」とうなり、あとを続けた。
「実は井上をつけ狙う輩がいてな。井上は鷹司家の裏向きの仕事を多くしていた。そのため、いわれのない恨みをかって狙われておったのだ。
もちろん、井上は何も悪いことはしていない。しかし、その恨みが今度は菜月さんに及ぶのではと大層心配していた。自分がいなくなったら、菜月さんを守るものがいなくなる。
だから、私たちに菜月さんを託したのだ。そして、夜逃げのような真似をして姿をくらますことにした。その場合、苗字も変えてこの家に入ったほうが、かえって目くらましができると話し合った。
そこで、少々早いが昔からの約束の、二人の子供を結婚させてしまおう、ということになったんだよ」
「させてしまおう……ですか」
若干短絡的すぎる気がして、あたしは拍子抜けした。それと同時にいろいろわかり驚くことも多かった。
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