第1章

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父さんはそういう仕事をしていたのか。裏の仕事のあるこの鷹司家っていったいなんなんだろう……。 ここにくるまでのいろいろなことで確かに危険は相当及んでいたので、あたしのためにこの家に入れたいっていうのもまあ、納得できた。恨みの理由はよくわからないけど、ありがたいことだ。こんな大きな家なら、安全に違いない。 『何も心配しなくていいんだよ』という父さんの言葉を思い出した。 ここにいることによって、天国の父さんが安心するなら、うん、ここにいさせてもらおう。 でも、結婚っていうのがよくわからない……。この話は父さんとあたしにはメリットがたくさんあるけど、鷹司家には、なんのメリットもない。 本当に愛人ならまだ納得できるけど、こんなお金持ちの家の嫁に、そして、こんなに素敵な智樹さんの妻に、なんの取り得もないあたしがなるなんて、若かりし日の約束とはいえ納得いかない。 それに智樹さんはたぶん大学生くらいのはずで、その若さで見ず知らずのあたしと結婚していいのかな……。智樹さんだったら、相手はごまんといるだろうに。 そこで、あたしはふっと思いついた。 ……もしかして、父さんは家元の弱みか何かを握ってて、無理やりあたしを押し付けたんじゃないでしょうね……。裏向きの仕事をしてれば、家元や鷹司家の秘密の一つや二つ知っていてもおかしくはない。 あたしは、いろいろ考えながら、家元夫妻を見た。 二人は本当に心からあたしを歓迎してくれている。こんな夜遅くまで起きて待っててくれ、笑顔で迎えてくれたんだもんね。全く嫌なそぶり一つせず、これが演技には到底思えない。 奥様も、大切な息子の嫁がこんなあたしで、嫌味の一つも言っていいくらいなのに、ずっとあたしの味方でいてくれる。 あたしは、ありがたくて申し訳なくなってきた。 父さんが握った弱みが何かわからないけど、もう入籍の手続きまで終えるほど、歓迎の気持ちを持ってくれている。父さんが亡くなってひとりぼっちになってしまったこんなあたしを温かく迎えてくれている。こんなにありがたいことはないよね。
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