第1章

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「え?……これ全部、あたしの部屋?」 とにかく、広かった。 行ったことはないけど、ホテルのスイートルームってこんな感じなのかなと思った。高級そうなソファに家具にテレビ。ホテルにありそうなものは全てそろっていたし、その部屋の奥にある少し開いたドアの向こうにはベッドとチェスト、作り付けのクローゼットらしきものが見え、部屋の中に部屋がある、と驚いてしまった。 全体的にやさしい、ピンクというよりは桃色が基調となっていて、鷹司家の人々同様にこの部屋があたしを温かく迎えてくれている気がした。 父親と二人の質素な生活から一転、こんな豪華なお屋敷に住むことになるなんて考えてもみなかった。しかも自分の部屋はスイートルームだ。 「すごく素敵……。こんな素敵な部屋見たことないよ」 あたしは驚きながらも、ひとつひとつを見てまわり、ソファに座ったり、奥の部屋のベッドに座ったりと、すっかりはしゃいでいた。 「気に入ってもらえて良かった。お袋が楽しそうに家具とかカーテンとか選んでたんだよ。本当に菜月がきてうれしいんだろうな。楽しみが増えたって言って喜んでるよ。あ、そうそう、こっちがバスルームだよ。お湯の出し方わかるかな……菜月?」 智樹さんの声が遠くなっていく……。 あたしはふかふかのベッドの感触を楽しんでいるうちに、吸い寄せられるようにそこから離れることができなくなっていた。 奥様が選んでくれたのか……明日、お礼言わなくちゃ……バスルームって……なんだっけ……まあ、いいか、明日……考えよう……。 智樹さんの気配がして、小さな笑い声が聞こえた。なんて心地のいい響きだろう……。 意識の遠くなる中、智樹さんはあたしにお布団をそっとかぶせてくれ、静かに部屋を出て行った。
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