第1章

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翌朝、あたしは眩しさと息苦しさで目を覚ました。 うっすらと片目を開くと、カーテンが全開になっていて、まばゆい光が降り注いでいた。今日はなんていい天気だろう。こんな日はお洗濯しなくちゃ。でも、待って。この息苦しさは何?まるで、体に何かが乗っているみたい。 あたしは、ゆっくりと両目を開けてみた。 すぐ目の前にあったのは、殻をむいたゆで卵のようにぷりんとした、子供のまあるい顔だった。 「え?」 あたしは驚いて起き上がろうとしたが、子供がおなかにのっていて、体を起こすことができない。 「起きたぁ?」 大きな、くりっとした澄んだ瞳であたしを見つめていたその子は、にっこりと笑った。 「僕、航(わたる)っていうの」 「わ、航くん……。どこから、来たのかな?」 あたしは、起き抜けということもあり、かなり混乱していた。航くんごしに見えた豪華な部屋にも、改めて驚き、昨日の出来事が一気に頭に蘇ってきた。 そうだ、あたし、智樹さんと結婚したんだ。でも、子供はまだ作ってないよねぇ、などと訳のわからないことを考えた。 航くんは、とてもかわいい3歳くらいの男の子で、どことなく、智樹さんに似ている気がした。 もしかして、結婚して間もないのに、隠し子発覚か、と思っていると、航くんはベッドからひょいっと飛び降りた。 「今日はみんなお寝坊さんだねぇ。だから、僕が起こしにきてあげたの。次は智樹お兄ちゃんね」 そういうと、とことこと部屋から出て行った。 お兄ちゃん……。ああ、弟か。ずいぶん年が離れているけど……。 あたしがポカンとして、後姿を追っていると、航くんと行き違いに、昨日お茶を出してくれた家政婦さんが入ってきた。 「ああ、起こされちゃったね。航坊ちゃんを止めにきたんだけど、一足遅かった。奥様に、ゆっくり寝かせてあげてって言われていたんだけどね」 そう言って、豪快に笑った家政婦さんは、ふくよかな体を揺らしながら、やっと体をおこしつつもまだ寝ぼけているあたしの側にやってきて、姿勢を正し一礼した。 「若奥様。私はみつ子って言います。この家にお使いしてもう二十年になる家政婦です。不慣れなことが多いと思いますから、今日は私がお手伝いさせていただきますね」 かしこまった挨拶をされて、あたしは恐縮した。
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