第1章

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「あ、菜月です。よろしくお願いします。……でも、その若奥様っていうのは、どうも……」 そう言って照れていると、みつ子さんはまたガハハと笑って、その態度を崩してくれた。 「そうだよねぇ。まだ高校生だもんね。あたしもね、なんて呼んでいいのか、わからなくてさ。智樹坊ちゃんの奥さんだから、やっぱり、若奥様かねぇ、なんて、森野さんとも話していたんだよ」 昨日運転してくれた森野さん。昨夜のカーチェイスが思い出された。 「菜月でいいですよ」 「そうかい?あたしもこんな感じだから、気をつかわなくていいからね。じゃ、まずバスルームだね。こっちにきてごらんよ」 そう言われて、あたしはごそごそとベッドから抜け出た。 「こっちにお風呂とトイレがあるからね。お湯はここで調節して……」 あたしは目を見張って驚いた。そういえば、昨日智樹さんもバスルームって言っていたような。 「すごい!本当にスイートルームみたい!」 広い洗面台に、鉛色のアンティーク風な蛇口。お風呂もちゃんと大きなバスタブがあり、下には猫足のような支えがついていた。個別の部屋の中にお風呂とトイレがあるなんて、普通の住宅にはありえない。まさに高級ホテルだ。 「おや、あたしと同じような庶民感覚を持っててくれて良かったよ」 みつ子さんはにやっと笑った。 「ああ、そうそう。奥様がね、もし起きてたら、スタジオに連れてきてって言ってたんだ」 みつ子さんは手をポンと打ち思い出すと、チェストから着替えを出してくれた。その引出しを覗き込むと、洋服がびっしりと詰まっていて驚いた。 「これ、全部、あたしが着ていいの?」 「そうだよ。サイズは合ってるはずだよ。奥様が全部選んでくださったからね。そっちのクローゼットにもたくさん入っているから。で、ひとまず今はこれに着替えてスタジオに行こう」 渡されたのは、Tシャツとタイトなパンツ、そしてタオルだったので、「スタジオって、ジムみたいなところ?」と聞くと、「まあ、そんなところだね」という返事が帰ってきた。 言われるままに急いで顔だけ洗い着替えをすると、みつ子さんの後について広い廊下を歩いていった。 これは一人では帰れないかも……と不安になるくらい角を曲がり、階段を降り、しばらく歩いてようやくスタジオに到着した。
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