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防音のような分厚いドアを開けると、大きな窓からの太陽の光に満ちたスタジオにいたのは、さわやかな表情、そして奇抜なポーズをとっている奥様だった。
「航ぼっちゃんに起こされてましたので、お連れしましたよ」
「まあ、航ったら。菜月さんに会えるのを楽しみにしていたから、はしゃいでいるのね。許してあげてね」
奥様は床に敷いた小さいマットの上に座りこみまた別のポーズをとっている。それに驚きながら、「いえ、そんな」と恐縮した。こんな時間まで寝ているほうが悪いのだ。
みつ子さんが「じゃ、がんばってね」とウインクして出て行こうとしたので、お礼を言って見送った。
「よく眠れたかしら?」
奥様は相変わらず変わったポーズをとりながら、にこやかに言った。そうか、これはヨガだ、とやっと気がついた。
「はい、あの、とても素敵な部屋を用意してくださってありがとうございます」
あたしは深々と頭をさげた。
「そんなかしこまらないで」
奥様は優しく笑って言った。
「これからは私たち家族なのよ。私、本当に娘ができて喜んでいるのだから。今度、一緒にお買い物いきましょうね。息子たちだけだとそういう楽しみがないのよ」
奥様は楽しそうに言った。
なんて素敵な人なのだろう。あたしは少しぽーっとなってみとれてしまった。母親の記憶はないから、こういう感じにとても憧れていた。母親と一緒にお買い物……。あたしは考えただけで、心が暖かくなるような気がした。
「そういえば、航くんって……?」
智樹さんの隠し子ですか?とも聞けず口ごもってしまうと奥様が笑顔で答えた。
「驚いたかしら。智樹を生んで10何年もたって妊娠しちゃったから、私たちも驚いたのよ」
奥様は楽しそうに次のポーズをした。
良かった。やっぱり弟かぁ。あたしは安心してほっと息を吐いた。
と、いうことはあたしの義弟になるのか。そう思ったら、急にあのかわいい航くんにより一層の親近感が湧いた。
「昨日は遅かったから、今日はブランチにしましょうね。その前に、菜月さんもこっちにきて」
奥様はポーズをやめ、あたし用にもう一枚マットを敷いてくれた。
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