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「そのテレホンカード、そんなに価値があったんですか?」 「鈴木が言うには、二十年ほど前に、あるアルコール飲料の販売促進様として作られた物で、制作直後、その写真として使用されていた俳優が麻薬所持事件を起こし、すぐに回収された物らしくてね、マニア垂涎の一品だったらしい。それの未使用品を偶然発見し、思わず衝動買いしたという事だよ」  大野刑事はそう言うとよく分からない、とでも言いたげに首を振るが、その話からは収集家の情熱、そして恨みという物はそれだけ恐ろしい物なのだという事がひしひしと感じられる。  そんな話をしている間、店長はケーキにフォークを入れていた。幸せそうに食べる姿に私は毒気を抜かれ、 「店長、私の分も食べて良いですよ」と、皿を店長の側に差し出す。小さなケーキを店長に回した罪悪感に負けたのだ。決して、食べ物の恨みが怖くなったわけではない。 「良いのかい?」  店長は私の行為に目をしばたたかせながらも、断るような事はせず、皿を手元に引き寄せる。
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