財布はカタル

写真機はカタル

　少女はその時初めて私以外の存在に気がついたのか、目をまん丸に見開いて店長の姿を凝視する。店長は茶色いタータンチェックのウェストコートに裾を絞ったズボンをサスペンダーで吊り、あまつさえ蝶ネクタイを着けるというあまりにも時代錯誤な服装をしているのだ。店長が言うにはこれがこの店での伝統的な正装なのだという。そして、私には事ある毎に割烹着や着物などを着ないかと勧めてくるのだが、そういうときはいつも丁重にお断りをしている。
「何でしたら、案内しましょうか？」
　店長は少女があっけにとられている様子を見て、自分の説明が通じなかったとでも思ったのか、そんな提案をする。
「い、いえ、大丈夫です」
　かわいそうに少女は慌てて首を振ると、深く頭を下げてきびすを返し、店を出て行った。