第1章

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二人が警察署に着く頃にはすでに辺りは暗くなり始めていた。警察署内にいた警察官に二人は事情を説明するが、まともに信じてはもらえなかった。しかし、ミズキの両親はミズキが行方不明になったとして捜索願を出していたらしい。 ミズキは家に送ってもらえる事になり、そのついでにワタルも孤児院に送ってもらえる事になった。とりあえず家に連絡すると言って警察官は電話をかけ、ワタル達二人は何とかなったと安堵の表情を見せる。 しかし、安堵できた時間はほんの数秒の時間だけだった。突然警察署の外から人の悲鳴が聞こえてきたからだ。 「嘘だろ、あいつらもう降りてきたのか?」 ワタルは外から聞こえてきた悲鳴に表情を強張らせる。ここから山までは少し距離がある。にも関わらず、化け物がもうここまで来たという事は、自分達を追いかけてきたのではないだろうか。ワタルもミズキも同じくそのような事を思っていた。 警官が悲鳴を聞いて慌てた様子で通話を切ると、同僚の警察官と共に慌てた様子で悲鳴が聞こえた方向に走って行く。 「どうしますか? 俺たちも向いますか?」 「見に行こう。しかし、慎重に。奴らに見つからないように慎重にね」 ミズキの言葉にワタルは頷くと、二人も悲鳴が聞こえた方向に向かって走り始める。拳銃の発砲音が二人の耳に届く、どうやら警察官は拳銃を発砲したらしい。 二人が現場に着くとそこにはすでに殺されている女性の姿と、緑色の小柄な化け物、そして銃を構える警察官の姿があった。 小柄な化け物はすでに一匹が射殺されているが、まだあと二匹が生きており、拳銃を構える警察官二人に向かって、うなり声を上げている。 小柄な化け物は醜悪な面をしており、耳は尖り、緑色の体色をしている。ゲームなどに出てくるゴブリンそのままの姿だ。二匹のゴブリンは片手にナイフを所持しており、一匹のゴブリンのナイフからは真っ赤な血が滴り落ちている。そのナイフで女性の命を奪ったのだろう。 しかし、警官二人は拳銃を所持している。たかだか小型のナイフ程度では拳銃に太刀打ちできない。 警官が照準を定め、再びゴブリンに向かって発砲しようと引き金を引く。その動作に迷いはない。目の前で人が殺され、このままでは自分たちも殺されかねないと感じているようだ。 そして、警官が引き金を引いた瞬間。 拳銃は茶色く変色し、ボロボロになって崩れ落ちた。
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