第1章

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目の前の化け物は何故か突然足を止めた。少年は未だ半狂乱になっており、しばらく叫び声を上げながら暴れ続けていたが、やがて化け物が襲い掛かってこない事に気づき、暴れるのを止める。 「なんで襲い掛かってこないんだ?」 少年が質問しても、当然誰も答える者はいない。先ほどまで唸り声を目の前の化け物は上げていたが、今は静かに佇んでおり、何もしようとはしていないように見える。 「もしかして。おい、手を上げてみてくれ」 少年が目の前の化け物に恐る恐る声をかけると、なんと目の前の化け物は無言で両手を上げた。こうなると先ほどの恐怖感が段々薄れてくる。しかし、そこで再度外から何かが破壊されるような音が聞こえてきた。 「このベルトを外してくれ!」 少年が慌てて目の前の化け物にそう命令すると、化け物は少年の体を拘束するベルトを両手で握り、いとも容易く引きちぎった。どうやら人間の筋力を軽々超える筋力はあるようだ。それに少年の命令を聞いて行動できる程度の知能はあるのだろう。 少年は拘束から脱出するとすぐに起き上がり、手術台の上から飛び降りた。 何故化け物が自分の命令に従うのかはわからない。しかし、今は悩んでる場合ではないと少年は思う。 「ついてきて俺を守ってくれ」 少年はそう言うと手術室のような場所から出て、化け物もその後についていく。少年も何故化け物が自分に従うのか、何が起きているんだ、など色々と考え込みたいことはあったが、それはここを脱出してから考えることにした。 「なんだよ、これ」 外の光景を見て、少年が思わず呟く。病院の廊下のようなそこには血があふれ、白衣を着た人の死体が転がっている。 それの中には少数だが、少年と同じような薄い水色の服を着た者も混じっていた。今ここに化け物は自分の後ろに付き従う一匹しかいない。そっと抜け出すには絶好のチャンスかもしれない。 しかし、少年は現在裸足だ。この血の海を裸足で通るのにはかなりの抵抗がある。だが、破壊の音は段々近づいてくるように少年には感じられた。 少年は覚悟を決めると、自分のズボンに血が付着するのもいとわず廊下を一気に駆け抜ける。血の海を抜けると少年は素早く窓から外を確認する。
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