第1章

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どうやらここは二階のようだ。玄関の位置は把握できたが、そこには白衣を着た人間の死体があり、巨大な狼のような生き物がその死体をむさぼっている。 少年は玄関から脱出するのは無理だと感じ、階段を探して化け物に警戒しながら注意深く降りる。 一階に降りると、少年は化け物の叫び声が聞こえる場所や人間の悲鳴が聞こえる場所を避け、窓から顔を出すと、辺りを素早く見回した。 化け物はいない。少年は少し移動しただけにも関わらず、その体から大量の汗を流しながらそう思う。この病院のような建物は鉄の柵で囲まれていて、周りは木々しかない。どうやらここが町の近くではないということだけはわかる。 少年は後ろに化け物がきちんとついてきている事を確認すると、窓から勢いよく飛び出し、柵をよじ登る。そして、柵から飛び降りると森の中に全力で駆けて行く。 少年の足の裏から血が流れるが少年はその事に気づかず、ひたすら走り続ける。やがて、息が切れたのか少年は立ち止まり、膝に手を着けると荒い呼吸を何度もくりかえす。 少年はゆっくりと後ろを振り返る。そこには緑色の化け物が顔色一つ 変えずに佇んでいた。そのことに残念がれば良いのか、喜べば良いのか少年にはわからなっかったが、少年はひとまず命の危機が去った事に安堵の息を洩らす。 しかし、現在ここがどこなのかさっぱり検討がつかない。確か自分は。そこまで考えた時。少年はハッとした。 何故なら自分はもう死んだ筈だったからだ。自分は自殺する為にこの山に入り、首を吊って自殺しようと考え、実際に自殺した筈だ。 だが、現在何故か自分は病服を着てここにいる。そもそも何故自分は自殺しようと考えていたのだろうか。少年はそこまで考えて、自分の記憶が断片的にしか思い出せないことに気づき愕然とする。 自分の名前は思い出せる。千堂航(センドウ ワタル)、確か17歳だった筈だ、両親はいない。孤児院で暮らしていた。 そこまで考え、もしかしたら死ぬ寸前で誰かに救われ、病院に搬送されたのではないかとワタルは思い始めた。 自殺しようとした理由が思い出せない今、再度自殺をするつもりはない。逆に今は生きたいとさえ思っている。 ワタルはとりあえず足の痛みに顔をしかめながらまっすぐ進み、15分程歩き続けた。やがて川に出たワタルは、他の化け物に出会わなかった事に安堵の息を吐き川を眺める。
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