第1章

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「確かこういう場合は山頂に登ってその後、登山道から降りるのが正解だと聞いたことがある気がする」 ワタルはそう呟くと、しばしその場に立ち止まって考える. 「確かこういう場合は山頂に登ってその後、登山道から降りるのが正解だと聞いたことがある気がする」 まず、ワタルは現在裸足だ。そのまま山を登るのは正直厳しい。それにここは恐らく、日本で一番高いと言われる山の中だ。この薄い服一枚で登山するなど自殺行為に等しいかもしれない。 「しょうがない、下るか」 ワタルは登るのは無理そうだと判断し、川を下る為に足を踏み出す。ゴツゴツとした岩で足を切ってしまいそうだが、それは諦めるしかない。 「下るのか? でも、それだと時間がかかり過ぎるような気がするが」 急にワタルは何者かの声を聞き、勢い良く後ろを振り返る。女性の声だ。ワタルが声が聞こえてきた方向に視線を向けると、ワタルと同じような恰好をした女性が木の陰からワタルの姿を窺っていた。 長い黒髪をポニーテールにしている女性は大体ワタルと同じくらいの年齢に見えるが、詳しくはわからない。 緑色の化け物は女性に向かって牙をむき出しにしながらうなり声を上げ、女性はその化け物の姿を見て恐怖を顔に浮かべて一歩後ろに下がる。 「止めろ、威嚇するな」 ワタルが命令すると化け物はすぐにおとなしくなり、女性は若干顔を強張らせながらもこちらに近づいてきた。 「すごいな、本当にその化け物を従えることができているのか」 「貴女は? いや、貴女は何が起きているか知っていますか?」 ワタルは女性が自分と同じような恰好をしているのを見て、自分と同じような境遇にいるのだと悟ったが、もしかしたら何が起きたのか知っているのかもしれないと感じていた。 「何が起きたのかは私にもわからない。大方またいかがわしい実験を行い失敗したのだろう。自業自得という奴だ」 女性は吐き捨てるようにそう言うがワタルには何が何だかさっぱり理解出来ない。 「実験? あそこは病院ではなかったんですか」 ワタルの質問に女性はあっけにとられたような表情をした。どうやらあの施設が実験施設だという事をワタルが知らないのが意外だったらしい。
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