第1章

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「えっと、じゃあ川をこのまま下る方向で良いですね?」 ワタルがミズキに確認を取ると、ミズキは首を横に振る。 「それでは時間がかかり過ぎるかもしれない。確か遭難時に川を下るのは危険な行為だった筈だ。我々は食料なんて持ち合わせていないから真っすぐ町に向かう方が良い」 「でも、町があれ方角がわからないですし、適当に歩いたらいつまで経ってもたどりつけませんよ?」 ワタル達二人は着の身着のままで研究所から脱出した為、現在は何も持っていない。この状態では山の頂上を目指すのは不可能だし、川を下る他に道はないようにワタルには思えた。 「そこで私の能力だ。空から町のいる位置を確認してそこに真っすぐ向かえば良い」 「成る程。でもそれなら、ミズキさんだけなら飛んで町に帰れるんじゃ?」 「いや、この能力で私は宙に浮いている訳ではないんだ。何というか地面から透明な手が生えて私を掴んで持ちあげているから宙に浮いているように見える。そんな感じなんだ」 カイにはミズキの説明を聞いても、何故飛べないのかわからず、首をかしげる。それならば腕を伸ばし続ければ飛べる気がするからだ。 「もしかして、その手の長さには限界があるんですか?」 「えっと、長さというか、浮ける距離にも上限はあるし、重量にも上限があるんだ。具体的に言うと私は地面から離れて大体3メートルちょっと、つまりこの木を超える程度の高さまで元々浮ける筈なんだが、今は何故か力が上手く操作できない。精々半分程度の高さまでしか浮けないだろう」 ミズキは近くに生えていた木を触りながら、ワタルに向かってそう説明する。今の安定しない能力では空中から町の位置を確認することは無理だということがワタルは理解できたが、それでは何故ミズキがわざわざそのことを足を止めて説明したのかかがわからない。 「つまりこうすれば良いんだ。『浮け』」 ミズキが浮けと呟くと、その言葉通りその体が徐々に持ち上がっていく。そしてミズキは途中で丁度良い太さの木の枝を見つけると、その枝の上に乗り移り、そこから再度『浮け』と呟き、宙に浮き始める。 「成る程。能力の起点となる場所は地面の必要はない。木も枝から更に高く宙に浮けるのか」 ワタルはその様子を見てようやく納得がいった。同時にミズキが宙を浮き始めた後も、ミズキが乗っていた枝が揺れていることに気づく。
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