第1章

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「本当に見えない糸にでも支えられているみたいだな」 ワタルがそう呟いている内にミズキはゆっくりと能力を使い、木から降りてきた。 「よし、町の位置も確認できた。早速向かおう」 ミズキが歩き始めると、ワタルもそれについて行きながらミズキに向かって質問する。 「先ほど『浮け』と何度も言っていましたけど、あれは何でそう言っていたんですか?」 「ああした方が早いからだ。研究者の一人が言っていたんだが、脳波と音声に反応して能力は発動するらしいんだが、確かに思うだけでも能力は発動する。しかし、能力を発動するた為にかかる時間が声を出した時に比べて長くかかるんだ」 それを聞いて、ワタルは納得すると同時に化け物が簡単な命令で自分が思うように動く理由も理解した。つまりワタルの思考、脳波を受信してより正確にこの化け物は行動していたようだ。 「脳波って聞くと、ファンタジーっぽくないですね。あれほど魔物みたいなのがたくさんいたんですから、もしかしたら異世界にでも迷い込んだのかと思ったんですが」 「そこは厨二の夢を壊してしまって悪かったね。でも、ファンタジーというより、この状況はSFの方がジャンル的に近いんじゃないのかい? まぁ、ファンタジーだろうとSFだろうと、どっちも今は勘弁してほしい所ってのが本音だよ」 ミズキの言葉にワタルは苦笑しながらも同意する。 その後もミズキが何度か能力を発動して現在の位置を確認し、ルートを修正しながら二人は町に向かって進んで行った。 出発したのが幸い早い時刻だったのか、二人は何とか日が暮れる前に町の近くまでたどり着くことができた。 「それでその魔物みたいなのは、どうする? 町に人がいたら大騒ぎになるだろうが、先ほどの魔物達が町にも襲い掛かっているようだったら、命の危険もあるし護衛代わりに連れていった方が安全かもしれない」 ワタルはミズキの言葉を聞いて考える。自分が暮らしている孤児院に化け物を連れて行くのは勿論論外だし、町がもし安全のままなら、入るだけで大変な事になる。 ワタルは化け物をここに置いて行くことを決めたが、そのまま放置するのも問題だ。どのような命令をするかワタルは必死に考え始める。
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