第1章

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「えーっと、このも森の中で人に見つからないように隠れていてくれ。とりあえず今はそれ以外あまり思いつかないかな」 ワタルの言葉に化け物は何も言わずにゆっくりと森の中に去って行く。ワタルにはどこまでの距離命令が届き、いつまで化け物が自分に従うかわからないが、できればずっとこの命令を守っていてほしいと思う。 「行こうか。とはいえ、町に着いたのは良いが、私達は無一文だ。これからどうする?」 「やはり、警察に行くしかないと思います」 ワタルもこれからの方針については、町に向かいながら考えていたが、警察に事情を説明する以外の選択肢はないように思えていた。 「しかし、こんな荒唐無稽な話信じてもらえるかな? 自分で体験したから信じられるが、聞いただけではとても信じられないと思うぞ」 ワタルもミズキの言葉に同感するが、信じてもらえそうな手段はミズキが持っている。 「能力を実際に見せてしまえば、少しは信じてもらえると思います。それにあの研究所の生き物達が外に出ればその内町にも被害がでる筈です」 「成る程。だが、能力を見せるのは少し抵抗があるな。国に拘束されて、モルモットにされる可能性もありそうだ」 ワタルはこの日本では流石にそのような事はないと思いたかったが、先ほどの研究所がもし国が経営している物だったのならこの国自体真っ黒ということになる事実に気づいた。 「しかし、このままでは手詰まりなのは確かです。もしやばそうならどのみち逃げ道はなさそうですし、ここはおとなしく警察に行きませんか?」 ワタルの説得にミズキはしぶしぶ頷いた。金も着替えも食料もない状態ではどうにもならないのは、ミズキもわかっている。ここからすぐに家に帰ることができる距離なら話は変わったかもしれないが、あいにく二人ともこの町は来た事すらない町だった。電車で帰るにしても、その運賃を払う事すら二人にはできない。 二人は道行く人に交番の場所を尋ね、交番へと向かう。通行人に二人は不審者を見るようなまなざしで見られたが、それも当然だろう。二人とも病院の入院患者のような恰好をしているし、何よりワタルは裸足だ。ミズキは靴を履いているが、ワタルにはそれがうらやましくてたまらなかった。 「それにしても裸足で痛くないのかい?」 「思い出させないでください。普通に痛いですし、思いだすと余計に痛くなってきました」
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