十九 地球国家連邦統合考古古生物学会長

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十九 地球国家連邦統合考古古生物学会長

 二〇五六年、九月四日、月曜、バンコク二十一時。(ミュンヘン十六時。上海二十二時)。 「二人を見失いました」  バンコクの優性保護財団、外部管理部で管理部長のセシル・ミラーが報告した。 「どこで、見失った?」  ホイヘンスは総裁執務室から外部管理部へ歩いた。  外部管理部に十三名の外部管理部員が居る。十三のコンソールが同心円状に配置されて、各コンソールのバーチャルディスプレイに情報収集衛星と監視システムの3D映像が現れている。 「昼過ぎにホテルをチェックアウトして、十四時にミュンヘン大学に入ったのですが、その後の行方がわかりません」  セシルは、メインコンソールに着いている。  「思考波は?」 「二人とも消えました」  ホイヘンスが専用のコンソールに着いた。メインディスプレイをセシルのディスプレイに同期させた。 「身体放射波は?」 「消えました」 「近くに居るはずだ。アネルセンの館も含めて、注意して探れ。  私は部屋へ戻る」 「わかりました」  ホイヘンスは外部管理部から執務室のデスクに戻った。  執務室の隔壁がスライドして、執務室を外部から完全に遮断した。  シールドされた空間に入らぬ限り、思考波や身体放射波は消えない。一ヶ月も追ったのに完全にまかれた。おそらく地下深くの空間だ。それも強固な岩盤の中へ・・・。旧世界は複雑だ・・・。  ホイヘンスはそう思いながら指示した。 「上げてくれ」  執務室が上昇して停止した。  現在、二十一時を過ぎている。上海は二十二時過ぎだ。週末のこの時間、ラビシャンは自宅に居る。  ディスプレイに向うと、ホイヘンスはラビシャン宅を呼びだした。 「今晩は。アンドレ。ラビシャン教授と話したい」 「今晩は。総裁。父はでかけてます」 「帰りは?」 「大学の教え子に会いに行きました。帰りは早ければ今晩。遅ければ明日の夕刻になると思います。お急ぎなら連絡させますが?」 「父上に話したい事があるんだ。戻ったら私に連絡するよう伝えてください・・・。  アンドレ。父上に話してからと思ったが、君に関する重要な事だから、伝えておこう」 「はい。何でしょう?」 「統合議会は、統合考古学会(地球国家連邦共和国統合考古学会)と統合古生物学会(地球国家連邦共和国統合古生物学会)を統合して統合考古古生物学会(地球国家連邦共和国統合考古古生物学会)とし、一人の統合考古古生物学会(地球国家連邦共和国統合考古古生物学会長)の下で管理すると決定した。  この決定に従って、統合政府学術研究省は、学術局と研究局を学術研究局に統合して、統合考古古生物学会を学術研究局の管理下に置く予定だ。  各連邦政府も二つの学会を統合して考古古生物学会とし、二つの局を学術研究局に統合して、各連邦の考古古生物学会を、学術研究局が一人の連邦考古古生物学会長の下で管理する。両学会は一つになるが下部組織はそのままだ。  一週間後の統合議会(地球国家連邦共和国統合政府議会)で、各連邦の連邦考古古生物学会長と、統合考古古生物学会長を決定するため、明日、統合評議会(地球国家連邦共和国統合政府議会対策評議会)が開かれて、両会長を内定する。  今夜、私は統合委員長に会う予定だ。君さえよければ、私は統合委員長を通じて君を両会長に推すつもりだよ」  統合議員(地球国家連邦共和国統合政府議会議員)は各連邦議会の議長と議員で構成される。  統合評議会(地球国家連邦共和国統合政府議会対策評議会)は、統合議長(地球国家連邦共和国統合政府議会議長)が務める統合委員長(地球国家連邦共和国統合政府議会対策評議会評議委員長)と、各連邦議長(連邦政府議会議長)六名が務める統合委員(地球国家連邦共和国統合政府議会対策評議会評議委員)の計七名で構成される。  この統合評議会が実質の統合政府(地球国家連邦共和国統合政府)であり、統合議長(地球国家連邦共和国統合政府議会議長)が首長を、各連邦議長(連邦政府議会議長)がその他の要職を務める。  だが、なかには統合議員が要職を務める場合や、優性保護財団の総裁を務めるホイヘンスのような例外もある。 「本当ですか?僕に異存はありません!よろしくお願いします」 「わかりました。・・・それでは、私に連絡するよう教授に伝えてください」 「はい。伝えます」 「では、また・・・」  ホイヘンスはアンドレとの画像通話を切って、セシルに連絡した。 「セシル。忙しいのにすまないがアレクセイ・ラビシャンの行動を調べて欲しい。  期間は一ヶ月前から現在に至るまでだ。これまでの交友関係の変化を調べてくれ」 「わかりました。しばらくお待ちください」 「例の二人は?」 「相変わらず、反応がありません」 「アネルセン邸に居住者反応は?」 「情報部の二人は執事に会ったと報告していますが執事の反応がありません」 「妙だな・・・。  二人の他にアネルセンとバトンの反応も探してくれ」 「わかりました」  ディスプレイからセシルの映像が消えて、ラビシャンに関する調査報告が現れた。 『アレクセイ・ラビシャンは、毎週、教え子のネリー・キムに会っている。  ネリー・キム。三十七歳。  上海大学理学部古生物学科卒。  雑誌サイエンス上海支社勤務。  西地区居住区域一〇二居住棟二十四階に居住。  家族は癌で他界。現在、家族無し。これまでの交友関係無しなし』  いつまでもラビシャンを利用すれば、そのうちネリーを通じて事実が明るみに出る。ラビシャンとネリーの記憶を消すか、それとも二人を消すか・・・。  二人の記憶は簡単に消せるが、二人を消して替え玉に換えればア、ンドレたちも消して替え玉に換えねばならない。替え玉は経費がかかる。彼らに大隅ほどの価値はない。  アンドレが二つの学会の会長に就任すればアンドレは私の手の内だ・・・。  アンドレのために私が動いている、と話して恩に着せようと思ったが、ラビシャンは私がアンドレを会長に推す事をアンドレに話していなかった・・・。  重要な件なのに忘れたのか?記憶力が弱っているのか?もしそうならラビシャンは遠ざけた方が良さそうだ・・・。アンドレが会長に就任したら、ラビシャンを引退させよう・・・。ラビシャンとネリーの記憶を消すのはその後でいい・・・。  報告の映像を消去しながら、ホイヘンスは今後を思った。  総裁執務室のドアが左右にスライドした。紺のスーツに身を包んだ髪の長い若い女が入ってきた。身長はホイヘンスより低い。 「ユリア。待たせてすまなかったね。急ごう。カンスンが待っている」  統合議長チャン・カンスンの公邸はバグダッドの連邦統合政府ビル内にある。  ホイヘンスはデスクからブリーフケースを取って立ち上がった。 「心配ないわ。四時間の時差があるもの。  アンドレは承知したの?」  ホイヘンスの妻ユリアはドアへ歩くホイヘンスの腕を取った。 「快く引き受けてくれたよ。  ラビシャンは明日の夕刻まで帰らないらしい。彼はアンドレに話してなかったよ」 「あら、話したとばかり思ってたわ」  ホイヘンスと歩きながらユリアは驚いている。 「詳しいことはヴィークルで話そう」  ここバンコクとバクダッドの時差は四時間。マッハ二の高速ヴィークルなら二・五時間ほどだ。午後九時過ぎだからバクダッド時間で午後八時前にバクダッドに着く。
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