第1章

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響也が家を出たあと、三葉家では両親と長女が楽しそうに談話していた。 話の内容は殆どが響也の悪口。 曰く、役立たず。 曰く、最低。 曰く、社会のクズ。 曰く、『化物』。 所詮、彼彼女らは響也の事をちゃんと見ていなかった。 悪意と憎悪と嫌悪しか持っていなかった。 因みに今日は平日であり、本来なら社会人である三人は家に居ないはずなのだが今日は仕事を休んでいた。 次女である、三葉 鶫(つぐみ)の誕生日だからである。 当然の事ながら響也もプレゼントを用意しているが、それは今も彼の部屋に置きっ放しである。 「ただいまー」 可愛らしい声が玄関から聴こえる。 本日の主役である鶫が帰ってきたのだ。 「お帰りなさい!待ってたわよ!」 母親はかなりハイテンションでそう返す。 すでに準備は終わっているのだ。 あとは彼女を驚かせるだけである。 鶫は妙に機嫌のいい母を不思議に思いながら、靴を脱いで家に上がる。 そこで、違和感を覚えた。 (靴が一足足りない?) 「早く手洗ってきなさーい!」 「あ、はーい!」 思考を中断し、洗面台へと向かう。 手洗いうがいをしながら、鶫は考える。 (そいや誕生日だったっけ……。まあ、響也君の誕生日近いし、まだまだ頑張んないと、喜んでくれるかな?) 鶫は、自分の誕生日よりも弟である響也の誕生日を、しっかりと覚えており、彼女にとって、響也がどれだけ大切な存在なのが伺える。 鏡を見ながら響也が喜ぶ様子を想像してニヤける。 実は鶫、弟大好きブラコンだがそれを一切表に出さないようにしている。 この家族、少し特殊で響也は母親以外とは、血のつながりがない。 鶫たちからしてみれば、母親の連れ子と言うことになる。 しかし、それも随分昔のことで、本当の、姉弟のように暮らしてきた。 長女は響也の事を嫌っていたようだが。 兎に角、鶫にとって響也は家族以上に大切な存在となっているのだ。
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