episode-03

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「もうやめっか、キシロ」  スマホ越しにその声を聞いた瞬間、血の気が引いた。体の奥から末端にかけて血流が熱くぞわっと抜けていくような感覚。目の前がクラクラするような気持ちの悪さ。滅多にかけてこない奥寺からの着信に妙な予感はしていた。 「やめるって…何を?」  ベッドから起き上がり、俺はスマホを持ち直して問い返した。 「キシロと俺との…関係。もう別れた方がいいかなって。」  別れる?別れる以前に俺たちの関係は付き合ってたって言えるのか?そう口をつきそうになって飲み込んだ。夜も更け日付が変わろうという時間、俺はどうしても奥寺の言葉を受け入れられない。 「…俺とやんの飽きた?」 「飽きてないよ、キシロとするの好きだし」 「じゃあなんでだよ?」 「なんでかなー、なんで俺たち付き合ってるんだろうなぁ、はぁ~」  質問に質問で返してきた上に、奴は大きなため息をついて黙りこんでしまった。  奥寺と俺との関係は付き合うなんて可愛いもんじゃない、ただのセフレだ。最初から俺はわかっていた。奥寺にとって俺は気持ちいいことをする共犯者なんだと。  しかも学校内で、同性同士で、昼間から壁越しに同級生が居るような場所で、恥ずかしげもなく足を開いて互いに咥え込み、果てるまで貪りあう。奥寺はこれ以上ない背徳感に酔えた事だろう。  でもそれは俺も同じだ。こうして一年以上体を重ね、相手の感じる場所を知り尽くし、イクタイミングもイかせるタイミングもわかっているのに、俺は飽きることを知らずもっともっと奥寺が欲しかった。  ずっと二人だけの秘密を共有して、一番気持ちいい瞬間を奥寺とだけ味わっていたかった。奥寺のイク顔は俺だけのもので、俺がイク時の顔は奥寺にしか見せたくない。そんな独占欲が生まれたのと同時に不安も抱くようになった。  きっと飽きられたら終わってしまう。そういう怖さがいつの間にかつきまとうようになって、その辺りから俺は奥寺を意識していたんだと思う。
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