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「……どうでもいいや……」
全身から血を流しながら、少年は掠れた声で呟いた。
変身した影響だろうか、まるで身体の内側で何かが燃えているかのようにとても熱い──でも、同時に寒さを感じて思わず息を吐いた。
やけに艶っぽい吐息を浅く何度も吐き出す少年は傷だらけの体を抱えるようにして立ち上がるが、足に力が入らずすぐさまへたり込んでしまった。
「っ……!」
次いでズキリ、と腕に痛みが走る。
見れば変身を解いたばかりだというのに左腕が赤い竜鱗で覆われたそれに変わっていっているではないか。
「……っ、はぁ……」
唇を噛んで何とか変身を食い止める。
強く噛み締め過ぎた唇が切れて血が溢れ出すが、座り込んだ大地に広がる誰の物とも知れない赤い血溜まりに滴り落ちて分からなくなった。
──痛みはある。だがそれは甘い痺れのように軽微なもので、苦痛を感じるほどではない。
ぼんやりと煙る思考を精一杯回して、少年はもう一度目の前の残骸に目をやった。
折り重なるように潰れたそれの間からは、所々ヒトの手が飛び出ている。
少年もよく知っている──この世で最も憎むべき──ヒト達の手。
助けを乞うように伸ばされたその手を見ていると、何だかひどく冷たい気持ちになってくる。
「ふん……」
どうでもいい。そう、もうどうでもいいことだ。
少年は今度こそ足に力を込めて立ち上がると、自分が潰した屋敷に近付く。
そして破れた赤いカーテンを残骸の中から剥ぎ取ると、首の周りをグルグルと二周させる。
「……寒い……」
口元を隠すように巻き付けたそれはマフラーのつもりだった。
「……熱いのに、寒い……」
この矛盾を止めようと巻き付けても、だがまだ寒い。
少年──グライヴ・ペンドラゴンはしばしその場に立ち尽くしたまま、風に靡くマフラーを傷付いた手で押さえていた。
終
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