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この娼婦め──そんな言葉をいくつも投げ付けられた。
何度も何度も何度も私は罵られ、蔑まれ、汚され続ける。
それが当たり前になっていたことに気付いたのがいつだったのか──私はもう覚えていない。
毎晩違う男と寝た。
一夜限りの、後腐れない関係。都合のいい女──それが私。
だけど望んでそうなった訳じゃない。
私が都合のいい女になってしまったのは、他人を魅了するこの“眼”のせい。
性別を問わず、視線を合わせた相手を魅惑してしまう魔眼……それを持って生まれてきてしまったが為に、私は娼婦と呼ばれるまでの女になってしまった。
でも悪いことばかりじゃない。
男を魅惑して、一晩抱かせてやる代わりに金を貰った。
家は裕福ではなかったし、妹が三人もいるのだから食い扶持を稼ぐ必要があったから、“都合のいい女”として金を稼ぐ分には魔眼は役に立っていた。
……だからいくら汚い言葉で貶められても堪えられた。
家族が生きる為に私が犠牲になっている、妹を守っていると思えば辛くない。
抱かれたところで、冷えきった私の心は何も感じなくなっていた。
だというのに──
「あなたのことが本気で好きです。他のどの男にもあなたを触らせたくありません。あなたの生涯を僕に守らせてください!」
“彼”は言った。
あまりにも澄んだその瞳でまっすぐ私を見詰めながら。
緊張して少し上擦った声でそう言った。
最初に私は疑った。
そして、あぁ、きっとどこかで魅惑してしまったのだろうと思った。
私が「娼婦」と呼ばれているのは周知の事実だし、“彼”もその事を知っていて然るべきだろう。
だからとりあえず抱かせてやろうと持ちかけたのに……その誘いは断られた。
初めて、だった。
私の誘いを断る男なんて、この世で初めて会った。
“彼”が言うには一晩だけの関係よりも長く続く関係が良いとのことで、何度か二人で逢瀬を重ねていった。
そして段々と彼の事が解っていった。
真面目で、ひたむきで、嘘のつけない馬鹿な人。
だけど不思議と嫌じゃなくて、むしろ一緒にいる事が嬉しくて……一緒にいると安心できた。
それが──“彼”との出会いが、私にとっての初恋であり、初めて知った本当の愛だった。
終
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