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その部屋を見た者は十中八九顔をしかめて踵を返すだろう。
それくらい、そこは極めて異常な空間だった。
「博士、見てください、今日もすごく良い天気ですよ。こんな日は一緒に日向ぼっこがてら散歩でもしたくなりますよね。ねぇ博士?」
「…………」
「え?自分と一緒に部屋にいる方が良いって?照れるなぁ、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいよ!」
ニコニコ笑いながらセブンは女の髪をいじる。
水色の髪はもう艶も柔らかさもなく、垂れた柳のようでしかなかった。
「ふふ……それにしても博士は今日も綺麗ですね。本当ですって、嘘じゃありませんよ!なんならほら、ご自分で見てみてください」
うっとりとした様子でそう言って青年は手に持っていた“それ”を棚に並んだモノに向ける。
……そこには手に持った“それ”──ワルツの頭と同じモノが整然と規則正しい間隔で並べられていた。
数知れない頭部だけのワルツ。
良くできた石膏像──などではなく、まさしくそれはワルツという一科学者の頭である。
「例えば、ほら。最初に貰った博士はすごくビックリしてますよ。驚いてる博士も可愛いです。──こっちの怒ってる顔の博士も良いですね。あっ、苦しそうにしてる博士も憂いがあって素敵ですね!」
一つ一つの頬や髪に触れていくセブン。
その声色も指先も愛しさで溢れてはいるものの、どこか歪んだ──壊れた──調子であった。
まるで外れた歯車がキチキチとなるように、機械的で、暖かみのない声だった。
……頭だけのワルツに触れていたセブンだが、青年はふとその手を止める。
彼の目線の先には諦念したように無表情なワルツがいた。
「……でも、どうして最近は何も反応してくれなくなっちゃったんですか?自分はもっと色んな表情の博士が見たいのに……ねぇ?」
ため息と共に不平を吐き出すと、手に持っていた頭を棚に置くセブン。
それでも彼は笑っていた。感情も何も無い笑顔で微笑んでいた。
「……そろそろお仕事の時間ですから行ってきますね、博士。寂しいだろうけど、少しの間我慢してください」
そう言って青年は、目一杯冷たい表情で、笑った。
「なんどでも、たくさんのあなたをあいしてあげますから」
終
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