お前なんか大嫌いだ

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男は笑ったまま死んでいた。 その顔は全てを成し遂げた感慨に溢れており、きっと知らない者が見ても腹に大穴が空いていようとは気付かないだろう。 それくらい男は幸せそうに死んでいた。 「…………ばかやろう」 そんな男の傍らに座り込み、グライヴ・ペンドラゴンは呟いた。 体力を使いきり、とうに限界を超えた体は今にも燃え尽きそうなほど熱い。 体内に潜む“赤い竜”の因子が変身を解いた状態でさえも覚醒しているためである。 朦朧とする頭をもたげて男の顔を覗き込むと、鮮血に濡れた髪から一筋紅がこぼれ落ちる。 それが頬に痕を残しても、男は反応しない。 そうだ。当たり前だ。何故なら彼は死んでいる。 「……お前は、ほんとに……ばかだなぁ……おれなんかのために……」 熱く焼ける喉から掠れた声を絞り出すグライヴ。 ばかだ、ばかだ、と繰り返している内に、彼と過ごした日々が脳裡に甦る。 ──見てください坊っちゃん、ピエロですよ!おかしな顔ですね!── ──おぉっ、去年と比べて2センチも伸びてますよ坊っちゃん!偉いです!── ──へへへ、かくれんぼで自分に勝てると思ったら大間違いですよ坊っちゃん。自分は坊っちゃんがどこにいるかなんてすぐ分かっちゃうんですから!── ──たとえ世界中の皆が坊っちゃんを嫌っても、自分は坊っちゃんの味方です。安心してください。坊っちゃんを独りになんてしません── ──大好き、なんて冗談で言いませんよ。自分はいつだって坊っちゃんのために生きて、坊っちゃんだけの幸せを祈ってます── ……温かい物が頬を流れる感触がする。 指先で掬うと、それは透明な雫だった。 泣いている。 そう自覚した途端、視界が歪み、瞳からボロボロと涙が溢れ始めた。 幼い頃に受けた“教育”の痕が残る腕で必死に拭う。 だが拭っても拭っても止まらない。 絶え間なく溢れてくる雫にグライヴは狼狽えた。 涙など流したのは果たしていつが最後だったかと訝って、そうだ、たしか“教育”を受ける辛さを彼に訴えた時が最後だったと気が付いた。 そして自分が泣けば彼が傷付くのだと知ったあの日から、自分は泣くのをやめたのだ。
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