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星の綺麗な夜だった。
手を伸ばせば届くんじゃないかって思ってしまうくらい、星たちはハッキリと輝いていた。
俺こと太刀花刀夜は、一人きりでだだっ広い草原の真ん中に大の字で寝転がっている。
初夏の──草花の匂いを纏った夜風が穏やかに流れて、俺の頬を撫でる。
「……気持ちいいなぁ……」
ひとりごちつつ瞼を閉じる。
草葉が風に騒ぐザワザワという声だけが聞こえた。本当に静かな夜だなと思った。
瞼を閉じたから星の光は遮断され、暗闇だけが見えている──いや、実際には何も見えてないんだけど。
──こんな静かな夜はよく昔を思い出す。
同じクラスの奴をからかったり、昼飯を賭けてトランプをしたり、先輩にどつかれたり、イラつかれたり、怒られたり、泣かれたり、殴られたり……まぁ、色々あった。今となってはいい思い出だ。
皆とっくの昔に成人して、やりたいことを見付けて就職したりした奴や、結婚して家庭を持った奴もいるらしい。
かつての仲間に会う機会もめっきり減ったし、なんだか少しだけ寂しいような気持ちになる。
ちなみに俺はフリーランスの傭兵をしながら世界中を回っている。誰に気兼ねすることもない旅のように自由な人生だ。
もともと器用な人間ではないし、“剣究者”なんて異能力がある上にせっかく戦学で学んだこともあるんだ、役立てなきゃ損だろ?
そんな訳で、金さえ貰えれば対人間の戦いだろうが魔族との戦いだろうが受けている。
いつ死ぬか分からないような仕事だけど、まぁその時はその時だと思って仕事を続けている。
……あぁ、前にそんなことを“アイツ”に言ったら殴られたっけ。「命を無駄にするな!」なんて言って思いっ切り怒るし。
“アイツ”は俺が嫌いなんじゃないかって学生時代からずっと思ってるけど、結局真相は謎のままだ。訊いても答えないし。
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