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今日は二人の記念すべき日──新たなる出発点、結婚式が執り行われる。日程や式場のセッティングをしたのはリカルドだ。
ただし二人の希望により来賓は無しとなっている。三人だけの小さな式が彼らの望みだった。
──神父役を務めるリカルドが声高らかに祝言を歌い上げる。
一通りの形式ばった儀礼を終え、残るは誓いのキスを残すのみ。
「それじゃ、俺の役割はここまでだ。あとは二人に任せるとして、俺は傍観させてもらうぜ」
軽い調子で言って祭壇を降りるリカルド。
その背中に声を掛けて、ヴァンが彼を引き留める。
「リカルド、今まであまり言えなかったが……俺はお前が親友で──」
「よかった」と言いかけた時、リカルドがそれを遮った。
「感謝の気持ちを表したいんなら、アイギナと一緒に幸せになったところを見せてくれってな」
そう言って去っていく親友の背中に、ヴァンは力強く首肯を返す。
必ず幸せにしてみせる──と、強く心に誓って、ヴァンはアイギナに向き直った。
「……アイギナ」
間を置いて名前を呼ぶと、アイギナが静かに微笑みを返す。
「バタバタしていたからさっきは言えなかったが……そのドレス、すごく、に、似合ってるぞ」
気恥ずかしさに駆られてしどろもどろになる己の舌が厭わしい。
これではまったく格好がつかないではないか。
自分の情けなさを憂れうヴァンだが、しかし相対するアイギナはと言えばまったく気にせず静かに言葉を紡ぎ出した。
「ありがとう。ヴァンもそのタキシード、似合ってる」
「そ、そうか?俺はあまり似合わないと思っていたんだが……ちなみに選んだのはリカルドだ」
「そういう格好のヴァンはなんだか新鮮。でも、素敵」
「っ……そ、そうか」
それだけ言ってヴァンは不意に真面目な表情になり、アイギナの双眸を真っ直ぐに見据えた。
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