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……グライヴの小さな体を抱き締めても、意外にも抵抗されることはなかった。
されるがままにグライヴは腕の中に収まっている。
「……嫌がらないんだな?」
男が言うとグライヴは腕の中で器用に字を書き付けて男の眼前に突きつけた。
『心底嫌だ』
「でも抵抗しないじゃん」
『少しでも抵抗したら、おれ、お前のこと殺しちゃうと思うんだけど、いいの?』
「いや……うん。まぁ、大人しくしてくれるなら、それに越したことはないんだが」
まさに爆弾を抱えているようなものだ、と男は思った。
グライヴ・ペンドラゴンはその特殊な出生によって異常なまでの身体能力を持っている。
少しでも腕に力を込めれば折れてしまいそうなほど華奢な体はとても熱く、生命の躍動を感じずにはいられない。
なんだかふにゃふにゃと情けない感触だが、グライヴは男の腕にしっかりと抱かれていた。
「あんなに死ねとか近寄んなとか色々暴言吐いてたのに、どういう心境の変化なんだ?」
あまりにも振れ幅の大きい急変に、問わずにはいられず問い掛ける。
グライヴは尚も一切表情を変えないまま、慣れた手付きで丸っこい癖字を書き殴っては男に見せていった。
『別に。ただ、個人の自由だと思った』
「自由?」
『誰が誰を好きになるのも自由。例えばおれがお姉ちゃんを好きになっても、それはおれの自由だろ』
「あぁ、確かに。じゃあ俺がグライヴを好きでも良いのか?」
その問いにグライヴはやや考えるように沈黙し、さらさらと紙に返答を書いて見せた。
『良いよ別に』
「うぉっ、マジか」
『お前はクソ変態なホモ野郎だけど、恋愛感情は自由だからな』
グライヴはそこまで書いてからもう一枚立て続けに書き上げた。
『ただ』
「ん?」
『おれはお前を好きにはならない。おれは男で、お前も男だから。それでも良いなら、お前はおれを好きでいれば?』
「構わねーよ。グライヴが俺を拒否しなくなったようにいつかまた心変わりするかもしれないし、それに期待するわ」
へらへらと笑って嘯く男の様子に、グライヴは眉を寄せた。
『一生ないかもよ?』
「もしかしたらあるかもしれないだろ?」
『バカじゃねーの』
それだけ書いて、男の胸に額を押し当てるグライヴ。
今までとは違って、男の体に触れることに不思議と悪い気は起こらなかった。
終
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