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「本来ならば、それで済む。済むのだがな。そこで出しゃばって来ているのが、あなた達に接近してきた霊術者集団というわけだ」
「なんや、倒そうとするのを妨害するとか、そんなところか?」
「それならば、術者を全員倒して、物の怪も倒せば済む話だ」
刀真があまりにあっさりと言ったので、葛島はえぇ? と正気を疑うような眼になった。実際、簡単なことではないが、この島に乗り込んでいる面子であれば、遅れは決して取ることはないだろう。いちいちそれを説明する間もないので、刀真は無表情で、続ける。
「やつらは物の怪を結界の檻で閉じ込め、どこかへと隠している」
「はぁん、そんなことじゃないかと思ったぜ……」
皮肉たっぷりに葛島はそう返した。そんなことが出来るのかと、言外に問いかけてきているような調子だった。
「犬だの猫じゃあるまいし、そんな……この島に隠してて人目にはつかないことがあるんか?」
「陰の世界に人間はいない。そこに隠しているのだ。因みに陰の世界も、見た目ならばこちらの――陽の界とはなんら、風景に変わりはない。この島のどこかに大量の物の怪が捕獲され、隠されている筈だ。霊術者達は、陰の界と陽の界の狭間に術で亀裂を与え、物の怪をこの世界に解き放つつもりでいるようだ」
未来への夢、希望の光を目指して到達した人類の高みは、黒く昏い死の怪物に呑みこまれる。
穏やかな風が、冷たい風に、幸せな笑い声は阿鼻叫喚へと。
平穏は一瞬にして虚構となり果てる。刀真にはその光景がまざまざと、はっきりとイメージすることが出来た。
「連中は既に何度か、二つの世界に亀裂を入れる方法を試し、成功している。ここでも全く同じことをしようとしている筈だ」
「そいつは洒落にならん話やな……でも、それで一体誰が何の得をするんや?」
葛島の素朴な言葉に、刀真ははっきりとした言葉は言えなかった。
「それで、自身の力を誇示したいのではないか……私はそう考えている」
「どうやろうなぁ……爺さん達の言葉――ワタツミの崇りってのが妙に引っかかって――」
葛島がそう言いかけた時だった。店内がにわかに騒がしくなり始めた。
体に電流が走ったかのような感覚に、刀真は立ち上がり襖を開け放った。遅れて氷雨も。
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