第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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 店内は部屋で仕切られたものもあれば、テーブル席もカウンター席もある。異変の中心はカウンター席に座った中年の男性だった。テーブルに突っ伏したまま、何かをぶつぶつ呟いている。 「お客様? いかがされましたか?」   店員が手を掛けたその瞬間だった。 「ワタツミさまぁあああああ!! ワタツミさまのたたりがおきる!! はやく、はやく、ここをでなきゃ……でなきゃ、でなきゃ!! 崇りの波に呑みこまれる」  ひぃっと店員があまりの不気味さに手を引き、後退る。周りの客は何事かと叫んだ男を見た。幸い、パニックになるとまではいかない。 「ちょっと、しつれーい」  氷雨が野次馬の間を通り抜け、霊符を袖の中に隠しながらすたすたと男に近づいていく。 「な、木下じゃないか! こないなとこでなにやってんね……」  驚く葛島を見て、木下と呼ばれた男は、挙動の掴みづらい動きで、葛島へと近づいた。葛島の隣で、刀真は彼を守るように、右手で懐剣を取り出していた。木下は目の焦点があっていない。トランス状態にあるかのように、顔をぶらぶらと動かし、黒い瞳が宙を泳ぐ。 「……崇り、崇りなんだ。ここに、こんなものつくるから……たたりたたりたたり」 「幻術と言霊の術に掛かっているな……精神に支障が出る程の効果が出ている」 「な、そんなどうして……」 「葛島ぁ! そこにいるのはだれだ……。まさか、お前、やっぱり……夢想様の言われた通りだ。こいつは俺達を裏切るつもりで………」 「落ち着け、何の話だ! 木下ぁ!!」  不味いと直感が告げ刀真は、掴みかかろうとした葛島の肩を掴み、後ろへと飛ばした。  「陰陽師ぃ……ワタツミ様の怒りは止まらぬ、鎮まらぬ。災いをこの海にもたらすであろう。お前達とて、止めることはできぬ、決してぇええ」 「成程――、真の狙いは怪異を起こすことではなかったか」
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