第三章 鬼哭啾啾の亡霊

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††† 『科学技術に酔いしれる現代人よ、欲望に満ちた宮殿の上で闊歩する現代人よ、伝説として現世より切り捨てられていった亡者どもの叫びを知り、そして恐怖せよ。この世の成り立ちを知り、絶望せよ』 鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)――“悲惨な死に方をした者の浮かばれない亡霊の泣き声が、恨めしげに響き渡るさま”   白と黒のノイズの中に映る灰色の影の声は掠れていた。  が、その声には拒むことを許さないだけの怨(おん)があった。  蒼はその声の正体を探ろうと、その画面にではなく、画面の向こうにいるであろう相手の霊気を見定めようとする。が、今はどこもかしこも霊気が乱れており相手がどこにいるか探るのは困難だった。 『この海に鎮座したまうワタツミ神はお怒りにあらせられる。卑しくも人間が、神の上に立とうとしているその愚行に』 「尤もらしい建前ではあるな」  真二が鼻を鳴らしそう評した。 『我々を歴史の闇へと葬り去ったように、神に対する信仰も畏怖も失った現代人よ、今一度、災いをその身に浴びるがよい。その肌に刻み付けるがよい。地獄への誘いは我々が努めよう――そして』  一瞬、画面向こうの影と目が合った気がした。 『欺瞞に満ちた使命に殉じる陰陽師どもよ。これは始まりでも終わりでもない。連綿と綴られてきた我々、光と影の戦いの一つ。通過点に過ぎない――お前達が忘れたというのなら、血でもって思い出させてやる』  画面の向こうで一段と霊気が高まる。 『我々は何度でも蘇る』  画面が内側から弾け飛んだ。墨のように濁り、穢れた陰なる霊気が濁流のように雪崩れ込む。 「万物の霊気に命ず! 晃らかにせよ! 光は風となり、夜空に、霽月は閃け!!」  蒼が抜き放った霊剣、護身之太刀黒陰月影から発せられた浄化の風が濁流を吹き飛ばす。霊力の嵐とも言えるそのぶつかり合いに、真二と銀勇は結界を張って余波を防いだ。 「畜生、こちらに考える隙も与えないつもりか!」 「やつらは反社会的な霊術者だった。それだけ分かれば十分だ!!」 「ハ! 反社会的な霊術者? またご大層な名称をつけたもんだ!」  後ろから聞こえてくる男どもの言い合いに、蒼は歯と歯の間から声を絞り出して一喝する。 「そんなことより、手伝いなさい!!」
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